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2025年にカチョ・エ・ペペの物理学研究が発表され、ソースの安定を決めるのはチーズ質量に対するデンプン比(1%未満で分離、2〜3%が最適、4%超で硬くなる)だと示されました。同研究は茹で汁だけではデンプンが足りないとして粉末デンプンを別に溶く方法を推奨しており、湯量を絞るKenjiの方法をそのまま裏づけるものではありません。それでもJ. Kenji López-Altは、この研究の公表より前から大鍋を使わず、フライパン一杯の水でパスタを茹でていました。大鍋にたっぷりの湯を沸かすのが「基本」とされてきた中で、湯を絞るほうが理にかなうと経験から判断していたことになります。
- 大鍋の茹で汁多い湯へデンプンが広がり、同じ一杯でも濃度は薄い。
- 少量湯の茹で汁少ない水へデンプンが集まり、一杯のとろみが強くなる。
茹で汁は容量だけでなく、元の湯量まで見て使う。
同じ「茹で汁大さじ2」でも、濃さはまったく違う
茹で汁はどのレシピでも「乳化の要」として登場しますが、その正体は麺から溶け出したデンプンを含んだお湯です。大鍋にたっぷりの湯を沸かして茹でれば、麺1本あたりが接する水の量は多く、デンプンは薄まります。逆に、麺がやっと浸る程度の水で茹でれば、同じ量のデンプンがより少ない水に溶け出すため、茹で汁自体にとろみが出ます。同じ「茹で汁大さじ2」でも、どちらの茹で方で作った茹で汁かで乳化のしやすさが変わるということです。
- 薄すぎる油滴を支える力が足りず、ソースが分離しやすい。
- 適度な濃さ水と油、チーズをつなぎ、艶のある状態を保つ。
- 濃すぎるまとまりは出るが、重く糊っぽい口当たりになる。
乳化には、薄過ぎず重過ぎないデンプン濃度の帯がある。
デンプンが糊になる:薄すぎても濃すぎてもソースは崩れる
乳化は、油とチーズのタンパク質を、水の中に細かく均一に分散させる作業です。水に含まれるデンプンは糊のような役割を果たし、油の粒とチーズを繋ぎ止めて分離を防ぎます。デンプン濃度が低すぎると糊の効きが足りず分離しやすくなります。ある程度濃いほうが安定する一方、濃すぎれば重く糊っぽい口当たりになるため、上限がない話ではありません。茹で汁のデンプン濃度は、麺から溶け出したデンプンの量と、それが溶ける水の量で決まります。家庭で最も動かしやすい変数は湯量です。
- Kenjiの経験則研究前からフライパンの少量湯でデンプンを濃縮した。
- Vincenzoの改訂後の研究を根拠に、湯量と茹で塩を減らす方向へ更新。
- 物理研究ソース安定とデンプン濃度の関係を別処方で検討した。
同じ濃度へ向かっても、経験・改訂・論文の根拠は分けて読む。
Kenjiは研究の公表より前から湯を絞っていた
Vincenzo’s Plate(Vincenzo Prosperi)は2026年の改訂版レシピで、2026年版ページが「Original Method Only」として残す岩塩大さじ1から一転して無塩とし、2026年版では湯量も少なめと明記しています(旧レシピは4人前で水3L、2026年版は「less water」とだけ書かれており、絶対量の対比は取れません)。同ページは「2025年発表のカチョ・エ・ペペの物理学研究で、茹で汁のデンプン濃度が高いほどソースが安定することが確認された」と紹介しており、湯量を絞る理由を説明したうえで「This is even backed by science!」と続け、この2025年の研究をその裏づけとして挙げています(同ページにはリンク・著者名・掲載誌の記載がなく、Bartolucci et al. の研究だと同定したのは本記事編集部の見立てです)。
詳しい解説を読む
J. Kenji López-Alt(Serious Eats)はこの研究の公表より前から、湯量を絞ってデンプンを濃縮する方向に行き着いていました。大鍋を使わず、12インチのフライパンに麺がちょうど浸る程度の水を張って茹で、「フライパンで茹でることで水中のデンプンが濃縮され、ソースが滑らかになる」と説明しています(対応する公式動画は確認できていないため、記事の記述として扱っています)。
日本勢では、リュウジがカッチョエペペをワンパンで作る際、パスタ1.4mm 100gに対して水340ccという少なめの水量を使っています。本人の公式レシピページにデンプン濃度への言及はなく、「ワンパンで出来るから超簡単」「パスタ以外はほぼ調味料だけ」という手軽さが前面に置かれています。別茹でをせず、煮汁が飛ぶまで煮切ってからバターと粉チーズを合わせるため、麺から出たデンプンが捨てられずそのまま鍋に残ります(茹で汁を取り分ける工程はありません)。
一方で、伝統的なローマの語り口はもっと感覚的です。老舗トラットリア「アルマンド・アル・パンテオン」のClaudio Gargioliのレシピ(Italia Squisita収録)では、水の量を数値化せず「avara(ケチる・控えめ)」とだけ表現しています。少なくともこのレシピでは、湯量は数値でなく感覚語で受け渡されています。同様の言い回しが他のローマの作り手にも共通するかは確認できていません。
- 湯量を減らす麺が沈む範囲で、いつもの湯を少しだけ絞る。
- 最初にほぐす茹で始めに麺を動かし、少量湯でのくっつきを防ぐ。
- 塩気を確認湯量に合わせて塩を量り直し、茹で汁も味見する。
湯だけを減らさず、ほぐし方と塩量も一緒に調整する。
家で試すなら、まず湯量を2〜3割減らす
大鍋で麺を茹でる場合は、まず湯量をレシピの目安より2〜3割減らしてみるのが手軽です。麺がすべて水面下に沈む最低限の量を目安にし、くっつきを防ぐため茹で始めの1分は箸で軽くほぐします。乳化前に茹で汁を取り分けるときは、いつもより少なめの水量にした分、味見をしながら塩気の濃さも確認してください。湯量を絞ると塩分濃度が同じ塩の量でも濃くなりやすいため、湯量に対する塩の分量を計算し直すと失敗が減ります。
- 家庭の少量湯麺を茹でる水を減らし、自然に溶けるデンプンを濃くする。
- 論文の処方茹で汁だけに頼らず、粉末デンプンを別に溶いて使う。
デンプン濃度は共通変数でも、少量湯を論文が直接推奨したわけではない。
指している変数は同じ、ただし論文の処方は別
「湯はたっぷり」という基本は、麺を均一に対流させて茹でムラを防ぐという別の目的では今も有効です。ただしカチョ・エ・ペペのように仕上げのソースが茹で汁のデンプンに依存する料理では、あえて湯量を絞ってデンプンを濃縮するほうが理にかなっています。Kenjiは研究の前に経験から、Vincenzo’s Plateは研究を根拠に、それぞれ湯量を絞る方向へ動きました。指している変数はどちらもデンプンの濃さで同じですが、論文自体は茹で汁だけではデンプンが足りないとして粉末デンプンを別に溶く処方を勧めており、湯量を絞る方法をそのまま裏づけているわけではありません。まずはカチョ・エ・ペペの比較ページで、湯量の違うレシピを見比べてみてください。乳化の原理を扱う別記事や塩分濃度に正解がない理由も合わせて読むと、茹で方の設計がつながって見えてきます。