ひと皿から、少し遠くへ。Recipes, people & good things.
硬質チーズの塊と粉チーズを比べるイメージ

工程の科学

茹で湯に塩を入れないシェフもいる:ペコリーノとパルミジャーノの塩気差

ペコリーノは羊乳で塩気が強く、パルミジャーノは牛乳で塩気が穏やかだ。Vincenzo's Plateは2026年版で茹で湯を無塩にしてペコリーノの塩気に任せる一方、Pasta Grammarは逆に「たっぷり塩を」と言う。チーズを先に決めてから塩加減を合わせるのが順序だ。

公開 PASTAFONIA編集部
目次
  1. ペコリーノとパルミジャーノは別の乳でできている
  2. 本場志向のシェフほどペコリーノに寄る
  3. 塩気の設計が最初に変わる
  4. 溶け方の違いと粉の細かさ
  5. まとめ
  • ペコリーノ羊乳由来で塩気とコクが強く、ローマ料理の軸になる。
  • パルミジャーノ牛乳由来で塩気が穏やか、旨味の出方も異なる。
  • 粉チーズ銘柄や乳種を特定せず、家庭レシピで置換に使われる。

三つの呼び名は表記差でなく、乳種と塩気の設計差。

ペコリーノとパルミジャーノは別の乳でできている

カルボナーラやカチョ・エ・ペペのレシピを比べると、チーズの指定が「ペコリーノ・ロマーノ」だったり「パルミジャーノ・レッジャーノ」だったり、単に「粉チーズ」だったりします。これは好みの表記ゆれではなく、原料からして別のチーズです。ペコリーノは羊乳のチーズの総称で、ローマ系のレシピで指定されるペコリーノ・ロマーノはDOP(保護原産地呼称)に認定されており、塩気とコクが強く出ます。パルミジャーノは牛乳から作るDOP(保護原産地呼称)チーズで、ペコリーノより塩気は穏やかで、旨味の質もやや異なります。ローマ4大パスタ(カルボナーラ・カチョエペペ・アマトリチャーナ・グリーチャ)はペコリーノが本来の指定ですが、日本のレシピではパルミジャーノや一般的な粉チーズに置き換わっていることが多いのが実情です。

  • ペコリーノ単体本場志向では量を決め、卵液や茹で汁へ溶き込む。
  • 二種を混ぜるペコリーノとパルミジャーノを同量で使う流派もある。
  • 家庭向け置換入手しやすいパルミジャーノや粉チーズへ寄せる。

本場志向から家庭再現へ進むほど、チーズ指定が柔らかくなる。

本場志向のシェフほどペコリーノに寄る

本場志向のシェフほどペコリーノを使う傾向がはっきりしています。Vincenzo’s Plateはカルボナーラで卵液にペコリーノ90gを溶き込み、パスタ100gあたり最低30gという自分ルールを明言しています。カチョ・エ・ペペでも「ペコリーノペーストを作り、蒸気で溶かす」と一貫してペコリーノを使用しています。J. Kenji López-Alt(Serious EatsのChief Culinary Advisor。動画は個人チャンネル)のカチョ・エ・ペペはペコリーノ55g単体に無塩バター30gを併用する構成です(Serious Eats公式レシピの材料表。現在は直リンクがbot拒否のためWayback写しで確認)。Pasta Grammarはペコリーノ30gとパルミジャーノ30gを同量で使い、火を止めて3分冷ましてから少量ずつ加える構成です。

詳しい解説を読む

一方、日本で参照されやすいレシピはパルミジャーノや粉チーズに寄っています。店舗系(小倉知巳・落合務)も含めてこの傾向がある一方、fabioのようにペコリーノを少量併用する例もあります。編集部の見立てでは、家庭再現を前提にしたレシピでペコリーノ・ロマーノDOPの入手性が考慮されている面があると考えられます。小倉知巳は「そら豆のカルボナーラ」でパルミジャーノを卵黄と同量使います(プレーンなカルボナーラ単体の出典は未特定)。落合務はNHK版が粉チーズ25g(2人分・麺140g)、講談社版がパルミジャーノ30g(2人分・麺160g)と、出典によって指定チーズと分量が異なります。リュウジのカルボナーラとカチョ・エ・ペペは「粉チーズ」という表記にとどまり、銘柄は書き起こしからは特定できていません(未確認)。

Serious Eats(ダニエル・グリッツァー)のカルボナーラ、Pasta Grammarとイタリア人シェフMax Mariolaのカチョ・エ・ペペは、ペコリーノとパルミジャーノを両方使う「ミックス」派です。Serious Eatsは4人分で全卵2個・卵黄6個の卵液にペコリーノ25g・パルミジャーノ25gを同量で溶き込む構成です(Serious Eats公式レシピの材料表に基づく:4人分450g・全卵2・卵黄6・ペコリーノ25g・パルミジャーノ25g。麺100gあたりに換算するとペコリーノ・パルミジャーノとも約5.6g)。Serious Eatsは「ペコリーノ単体は主張が強すぎる」として50:50で割る理由を明文化しています。パルミジャーノ側の役割も同記事が明記しており、ペコリーノの強さを「より甘くフルーティな」パルミジャーノで割ることで、塩気と鋭さが出すぎないようにすると説明しています。Max Mariolaはペコリーノのクリームに黒胡椒(粒)とパルミジャーノ大さじ1を加えます(Sky TG24掲載のレシピ本文)。

  • 強い塩気のチーズ茹で塩を控え、肉やチーズとの塩味重複を避ける。
  • 穏やかなチーズ標準的な茹で塩を保ち、麺にも下味を付けやすい。

茹で塩を決める前に、使うチーズの塩気を先に固定する。

塩気の設計が最初に変わる

ペコリーノは塩気が強いため、茹で汁の塩分濃度やベースの塩気と合わせると重なりやすい点に注意が必要です。カチョ・エ・ペペのように具がチーズと胡椒だけの皿では、茹で塩の扱いが流派で割れます。Vincenzo’s Plateは2026年版で茹で湯を無塩にしてペコリーノの塩気に任せ、Kenji López-Altも塩はひとつまみにとどめる一方、Pasta Grammarは「たっぷり塩を」と逆方向です。チーズの銘柄を先に決め、その塩気に合わせて湯量あたりの塩量を調整すると味の設計がぶれません。パルミジャーノや粉チーズは塩気が穏やかなので、茹で塩は標準的な濃度のままで問題ないケースが多いです。

再生するとYouTubeの埋め込みプレーヤーを読み込みます。YouTubeで開く

  • 細かくおろす表面積を増やし、茹で汁へ均一に散りやすくする。
  • 火を止める高温でタンパク質が固まり、ダマになるのを避ける。
  • 少しずつ混ぜる水分量を見ながら加え、滑らかな濃度へまとめる。

粒度、温度、投入量の順に整えるとダマを避けやすい。

溶け方の違いと粉の細かさ

ペコリーノとパルミジャーノはどちらも硬質チーズで、加熱するとタンパク質が固まってダマになりやすい性質があります(Pasta Grammar・Serious Eatsはいずれも clump=ダマ化として説明しています)。カチョ・エ・ペペで火を止めてから和える流派が多いのはこのためで、Italia Squisitaが紹介するクラウディオ・ガルジョーリ(ローマ『アルマンド・アル・パンテオン』)の原典版は「sempre a fuoco spento(常に火を止めて)」マンテカーレすると説明しています。もう一つ効くのが粉の細かさです。Kenji López-Altはマイクロプレイン(極細おろし)でペコリーノをすりおろすと記載されており、粗いおろし金より表面積が増えて茹で汁に溶けやすくなります。おろし方の違いはチーズグレーターとマイクロプレインで扱っています。

  • 羊乳の塩気ペコリーノを選ぶなら、茹で塩を控える余地を持つ。
  • 牛乳の旨味パルミジャーノで穏やかな塩味と熟成香を重ねる。
  • 二種のブレンド塩気と旨味の間を、混合比で自分の皿へ寄せる。

チーズ選びと茹で塩は、別々でなく一組で決める。

まとめ

ペコリーノは羊乳・強い塩気・本場志向、パルミジャーノは牛乳・穏やかな塩気・日本の家庭派で使われやすい、粉チーズは銘柄不明のまま使われることが多い、という3層で整理すると選びやすくなります。塩気の強さが違うぶん、チーズの銘柄を先に決めてから茹で塩の濃度を調整するのが安全です。ミックスで使う流派もあるので、まずはカルボナーラカチョ・エ・ペペの比較ページで、シェフごとのチーズ指定と塩気の記述を読み比べてみてください。茹で塩の考え方はパスタの塩分濃度に正解はないにまとめています。

ここで触れた道具・食材

この皿を作る

登場するシェフ

出典

  1. Vincenzo's Plate「Decoding Parmigiano Reggiano」
  2. Vincenzo's Plate「Blind Parmesan Taste Test」
  3. Vincenzo's Plate「Spaghetti alla Carbonara」レシピ
  4. Vincenzo's Plate「Cacio e Pepe Pasta」レシピ
  5. Serious Eats「Cacio e Pepe」レシピ(Kenji López-Alt)
  6. Serious Eats「Spaghetti With Carbonara Sauce」レシピ(Daniel Gritzer)
  7. Pasta Grammar「Cacio e Pepe: A Foolproof and Totally Traditional Recipe」
  8. Italia Squisita「Cacio e pepe secondo Claudio Gargioli」
  9. Sky TG24「Cacio e pepe, la ricetta」(Max Mariola)
  10. tuberecipe「そら豆のカルボナーラ」(小倉知巳)
  11. tuberecipe「至高のカルボナーラ」(リュウジ)
  12. tuberecipe「虚無パスタ カッチョエペペ」(リュウジ)
  13. きょうの料理「カルボナーラ」(落合務)
  14. 講談社『落合務のパーフェクトレシピ』紹介記事

チーズペコリーノパルミジャーノ粉チーズカルボナーラカチョエペペ乳化

隣の蘊蓄

横断比較

おろしチーズは17gから50g:ローマ3皿を貫く3つの軸

カチョエペペのおろしチーズは麺100gあたり17gから50gまで、流派で3倍近く違う(ファビオ版はこれとは別にクリームチーズ50gを加えるため総量では最多)。カルボナーラ・アマトリチャーナと材料は別物でも、チーズの量・豚の脂・乳化の起点という同じ3軸で分岐しているだけだ。

食材

モッツァレラは0mg、48ヶ月のパルミジャーノは2220mg

ペコリーノ・ロマーノDOPは羊乳100%でおろし用は最短8ヶ月、パルミジャーノ・レッジャーノDOPは牛の生乳で最短12ヶ月。産地も熟成も法律で決まっているのに、日本の棚に並ぶ「パルメザンチーズ」にはその縛りがない。乳の種類・熟成の長さ・粒の細かさという3つの軸から、サイト内の全レシピを貫くチーズの使い分けを追う。

食材

日本の規格に「エキストラバージン」という等級は存在しない

IOCは遊離酸度0.8%以下と官能パネルでエキストラバージンを定義する。一方、日本のJAS 0523:2024にあるのは「オリーブ油」と「精製オリーブ油」の2区分だけだ。発煙点をめぐる誤解、喉を刺すオレオカンタール、品種が決める辛味の幅、そして乳化。本稿で比較する既存30皿のうち22皿に入っている油を、規格・科学・レシピの三方向から追う。

食材

ペコリーノは塊で買う:使う直前におろす理由

ペコリーノ・ロマーノDOPは香りの揮発を避けるため塊で買うのが基本、というのが編集部の見立てだ。アマトリチャーナで確認できた中で最も多い麺100gあたり20gという使用量や、保存とDOP表示の見分け方までまとめた。