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1880年、パスタを乾かすのに夏で8〜10日かかっていた。1950年には約60°Cで24〜36時間。いまの工場は90〜115°Cで、ショートパスタなら2〜3時間で仕上げる(Slow Newsの取材記事による)。同じ「乾麺」という言葉が指す工程は、この140年で桁が2つ変わっています。
袋の中身も、驚くほど法律で縛られています。イタリアで「pasta di semola di grano duro」を名乗る乾麺は、デュラム小麦のセモリナと水だけで作らなければならない。日本のJASは、生地を7,840kPa以上の圧力で押し出せと書く。グラニャーノIGPに至っては、乾燥温度の上限と下限まで規定にある。
乾麺は農産物ではなく工業製品です。番手(太さ)、ダイス(成形型)の素材、乾燥温度。この3つが、皿の上でソースが絡むかどうかを決めています。
- 1154年のシチリア輸出される乾燥麺の産業が地誌に記録される
- 13世紀末の帰国マルコ・ポーロ以前から地中海に乾麺があった
- 1929年の創作米国の業界誌が中国持ち帰り説を物語にした
乾麺の記録はポーロより古く、持ち帰り説は後世の宣伝から生まれた。
マルコ・ポーロは麺を持ち帰っていない
いちばん有名な話から片付けます。「マルコ・ポーロが中国から麺を持ち帰った」という説は史実ではありません。出どころは1929年10月号の業界誌『Macaroni Journal』で、全米マカロニ製造業者協会が載せた「A Saga of Cathay(カタイ物語)」という創作記事です。消費を伸ばすための宣伝が、100年かけて雑学として定着しました。
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実証はもっと古い側にあります。文献上いちばん早い記録とされるのは1154年、アラブの地理学者アル=イドリーシーがノルマン王ルッジェーロ2世のために編んだ地誌。シチリア島のトラビアで「itriyya」と呼ばれる細長い乾燥麺が大量に作られ、地中海各地へ輸出されていると書かれています。マルコ・ポーロの中国渡航は13世紀末。彼の帰国より150年近く前に、シチリアには「輸出できる保存食としての乾麺」の産業があったことになります。
乾麺はもともと、船に積んで運ぶための技術でした。だからシチリアの皿には乾麺が似合う。イワシのパスタも、トラーパニ風ペストも、ノルマも、イカスミのパスタも、乾麺の島の料理です。なお1938年の映画『The Adventures of Marco Polo』にも、ゲイリー・クーパー演じるポーロが中国で麺に出会う場面があります。出典のLos Angeles Timesはこれを、当時すでに俗説が常識として通用していた例として挙げています(映画が広めた、とは書いていません)。
- セモリナと水標準の乾燥パスタは二材料だけで名乗る
- 特別パスタと卵麺追加素材は原材料名や別区分を表示して売る
- 普通小麦は別名国外製品は軟質小麦粉であることを名に示す
イタリアでは原料の違いが、乾麺の商品名と区分に直接表れる。
イタリアの法律は、乾麺の中身を2つに限っている
イタリアの現行規則、D.P.R. 9 febbraio 2001, n. 187(大統領令187号)の第6条第1項はこう定義します。「pasta di semola di grano duro」とは、デュラム小麦のセモリナと水だけで作った生地を、押し出し・圧延して乾燥させたもの(原文は “esclusivamente: a) con semola di grano duro ed acqua”)。卵も、油も、普通小麦粉も入れられません。ただし条文上の扱いは同じではありません。普通小麦粉以外の食材を加えたものは第7条の「paste speciali」となり、「pasta di semola di grano duro」の名に加えた原材料名を併記して売ることになる。卵を規定量入れたものは第8条の「pasta all’uovo」です。普通小麦粉だけは名乗りを変える道がなく、これを使った乾燥パスタの製造自体を第6条4項がイタリア国内向けには禁じています(EU域内の他国向け・EEA域内向け・輸出向けは第12条1項により対象外。混入の許容値は3%まで。第6条5項)。
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同条第3項の表が定める規格値は、水分12.50%以下、たんぱく質10.50%以上(乾物基準)、酸度4度以下。第8項は、普通小麦(grano tenero)を使って国外で作られたパスタをイタリアで売る場合、「pasta di farina di grano tenero」などと名乗れと定めます。イタリアの棚では、名前を見れば原料がわかる。
なぜデュラムなのか。デュラム小麦は硬質小麦で、その胚乳を粗挽きしたのがデュラムセモリナ粉です。たんぱく質とグルテンが多く、押し出したあと形が崩れず、茹でても芯が残る。あの琥珀色は着色料でも卵でもなく、デュラムセモリナ本来の色です(日清製粉グループの解説による)。2024年の査読論文はパスタ用セモリナの目安としてたんぱく質12〜15%(乾物基準)、グルテン11%以上を挙げており、イタリアの法定下限10.50%はそれよりかなり低い「最低ライン」だとわかります。
家で打つ生パスタでは、セモリナ単体だと硬すぎて扱いにくいので準強力粉(リスドォル)などを混ぜます(配合は生パスタの配合の記事へ)。乾麺と生麺は、同じ「パスタ」でも粉の設計思想が違う。
- 認める原料デュラム由来の粉に卵、トマト、ほうれん草を許す
- 工程の数値押出し圧力を7,840kPa以上と定める
- 太さの表示番号でなくmmでマカロニとスパゲッティを分ける
JASは中身だけでなく、押出し工程と形の分類まで数値で規定する。
日本のJASは、押し出す圧力まで決めている
日本にも規格があります。マカロニ類の日本農林規格(JAS 2633:2019)は、マカロニ類を「デュラム小麦のセモリナ又は普通小麦粉に水を加え、これに卵、野菜を加え又は加えないで練り合わせ、マカロニ類成形機から高圧で押し出した後、切断し、及び熟成乾燥したもの」と定義します。原規格の制定は昭和48年(1973年)12月26日、農林省告示第2633号。
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イタリアとの差は、許すものの中身に出ます。JASも粉はデュラム小麦由来(セモリナと、デュラム小麦の普通小麦粉)に限り、普通小麦(軟質小麦)の粉は認めない。加えられるのは卵と、トマト・ほうれんそうの2種の野菜だけで、添加物は禁止です。品質基準も数値で細かい。見かけの比重1.40以上、粗たん白質11%以上(卵入りは12%以上)、灰分0.9%以下、水素イオン濃度5.5以上。そして押出し圧力7,840kPa以上、約80kg/cm²。工程条件そのものを規格に書いています。パスタの食感は生地を強い圧力で密に押し固めることから生まれ、圧力が足りなければ組織が粗くなって茹でたときに崩れる、というのが一般的な説明ですが、規格本文は理由を書いていません。
太さの分類は別のルールに載っています。食品表示基準では、マカロニは「太さ2.5mm以上の管状又はその他の形状(棒状又は帯状のものを除く)」、スパゲッティは「太さ1.2mm以上の棒状又は2.5mm未満の太さの管状」(日本パスタ協会の解説による)。イタリアのブランドが「No.11」で表すところを、日本はミリで表す。ナポリタンのように日本で育った皿が太さ表記で語られやすいのは、この表示習慣の延長線上にあります。
- ブロンズ摩擦で粗くなり、実測分布は60µm付近へ広がる
- テフロン滑らかに押し出され、20〜40µmへ鋭く集まる
- 料理による例外アッサシーナでは非ブロンズ指定の流派もある
表面粗さの差は実測できるが、どちらが合うかは料理の設計で変わる。
ブロンズダイスとテフロンダイス:ピークは20〜40µmと60µm
乾麺は、生地をダイス(trafila、成形型)の穴から押し出して形にします。この型の素材で表面が変わる。青銅製のブロンズダイスは生地との摩擦が大きくざらつき、テフロン(PTFE)は滑るのでつるりと艶やかになる。
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この差は実測されています。小川・足立による2017年の研究(Food Science and Technology Research 23巻2号)は、ブロンズ・アルミ・ポリカーボネート・ポリプロピレン・テフロンの5素材でスパゲッティを押し出し、表面粗さを比較しました。粗い順にブロンズ>アルミ>ポリプロピレン>ポリカーボネート>テフロン。レーザー顕微鏡による分布のピークは、テフロン・ポリカーボネート・ポリプロピレンが約20〜40µmの鋭いピークだったのに対し、アルミとブロンズは60µm付近に幅の広い分布を示しました。「ざらざら」の正体は、数十マイクロメートルの凹凸の量と散らばりです。
ざらつきがソースの足場になる、というのが作り手側の説明です(この論文自身は「シェフはそう言うが実証はされていない」と断っています)。だからブロンズダイスを指定するレシピがある。グリーチャのKenji López-Alt版は、227gのパスタについて「ブロンズダイ=表面がざらついた押し出し麺(リガトーニ/スパゲッティ/ブカティーニ/トンナレッリのいずれか)」と明示し、麺表面のざらつきがソースの絡みを助けると説明しています。
ところが、ブロンズダイスが常に正解ではありません。アッサシーナのAdam Ragusea版は、「できればブロンズダイ不可(ideally not bronze-cut)」と留保付きで指定します。この皿は生の乾麺をトマトの液体で直接煮詰めて意図的に焦がす調理法(リゾッタート式)ですが、本人が理由を述べた記録は残っていません。同じ皿のpasta-grammar版は、下茹でせずフライパンで仕上げる都合上「6〜8分でアルデンテになる品質の乾麺」の例としてBarilla(バリラ)を名指ししますが、理由に挙げているのはダイスの材質ではなく茹で上がりの速さです。
ブランド側もこの二分法から動いています。Barillaは2022年10月、微細な彫刻を施したブロンズダイスで作る「Al Bronzo」ラインを米国で発表しました。ローンチ時点は6形状で、その後は業務用ラインへも広がっています(粗さの数値は非公表)。ダイスの選択が味の設計であり、同時にコストの選択でもある話はブロンズダイスとテフロンダイスの記事で扱っています。
- 天日で数日十九世紀末の天日乾燥は、夏でも八〜十日を要した
- 高温乾燥へ二十世紀に温度を上げ、工程を時間単位へ縮めた
- 品質の分岐高温は茹で崩れ、低温長時間は香りと色を意識する
乾燥の高速化は単純な劣化でなく、食感と香りの優先順位を変えた。
乾燥は8〜10日から2〜3時間になった
乾麺づくりでいちばん時間を食う工程は乾燥です。そしてここが、20世紀に最も激しく変わりました。
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Slow Newsの取材記事によれば、1880年には夏で8〜10日、1903年には3〜5日、1950年には約60°Cで24〜36時間。現代の工業ラインは90〜115°Cで、ショートパスタなら2〜3時間で乾く。産業技術としては、高温乾燥(60〜80°C)が1974年に、超高温乾燥(80〜100°C)が1980年代後半に導入され、従来の低温乾燥では18〜20時間かかったスパゲッティの乾燥が、高温で約10時間、超高温で約6時間まで短縮されたと文献はまとめています。
ここで直感に反することが起きます。速いほうが品質が落ちる、とは限らない。高温・超高温で乾かしたパスタのほうが調理品質に優れるとする研究は複数あります(DeStefanis and Sgrulletta 1990、Dexter et al. 1981、Manser 1980などが引用されています。個別の原論文までは遡って確認していません)。
2024年の研究は、最高乾燥温度の違う市販スパゲッティ3品(90°C・80°C・65°C、いずれもメーカー申告値)を比べています。原料セモリナの組成も違うため乾燥温度だけを取り出した実験ではありませんが、最高乾燥温度90°Cのサンプルは糊化温度が60.07〜74.6°Cまで上昇し、糊化エンタルピーは原料のセモリナより低く、論文本文はこの差を「−15%」と書いています(表の実測値は0.89→0.68 J/gで、比率としては本文の数字と一致しません)。65°C乾燥品(0.68に対し0.70)との差は、論文の統計処理では有意差なしと判定されています。そのうえで調理損失(cooking loss)は4.78g/100gと低温乾燥サンプルより良好でした。乾燥中にでんぷんが部分的に糊化し、たんぱく質のネットワークが締まって茹で崩れにくくなる、という筋書きです。
では低温乾燥に意味がないのかというと、そうではない。低温・長時間の側が守ろうとしているのは香りと色です。この対立が制度として書かれているのが、次のIGP規定になります。
- 土地と水生産、包装、使用水をグラニャーノ内に限定する
- ブロンズ成形押し出し器具を青銅製だけに定めている
- 乾燥の幅形状に合わせ40〜85℃、4〜60時間で乾かす
IGPは低温だけを命じず、土地、成形、乾燥範囲を一体で縛る。
グラニャーノIGPは「40〜85°C・4〜60時間」を法で縛る
ナポリ近郊のグラニャーノは、パスタ・ディ・グラニャーノIGPという地理的表示を持ちます。その生産規定(disciplinare)は、読むと工程マニュアルそのものです。
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生産と包装はナポリ県グラニャーノ市の全域内でのみ行うこと(第3条)。使う水は地元の帯水層のもの(第2条)。成形の道具は青銅製に限る(“utensili esclusivamente in bronzo”)。乾燥は形状に応じて40〜85°Cで4〜60時間(第5条)。最終製品の水分は12.5%以下、たんぱく質は乾物あたり13%以上、灰分は乾物あたり0.86%以下(第2条)。原料セモリナの水分は15%以下(第5条)。色は「giallo paglierino(麦わら色)」、茹でたときは「soda ed elastica(しっかりして弾力がある)」。
注目すべきは、上限85°Cが超高温域(80°C以上)にわずかに踏み込んでいる一方、下限40°Cと最長60時間を残している点です。IGPは「低温でゆっくり」を単純に義務づけてはいない。形状ごとに幅を持たせつつ、超高温で一気に焼き固めることだけは封じている。そしてたんぱく質13%以上(乾物基準)は、イタリア全国規則の10.50%(同じく乾物基準)より明確に厳しい。JASの11%とは直接は比べられません。JASは乾物基準と書いておらず、水分の上限も定めていないため、乾物に換算した値を当サイトでは確定できないからです。
この規定に沿って作っているのがDi Martino(ディ・マルティーノ)です。1912年創業、グラニャーノ、モンティ・ラッターリの湧水、ブロンズダイス、低温での緩慢乾燥。100%イタリア産デュラム小麦で120以上の形状を36か国以上へ出しています。ナポリの流れをくむ銘柄にはVoiello(ヴォイエロ)もあり、1879年トッレ・アンヌンツィアータ創業、現在はバリラ傘下です。ナポリ風ラグーのように何時間も煮た濃いソースを受け止めるのは、この系統の得意分野になります。
- La Molisana工場責任者は乾燥を85℃以下と説明する
- Rummo公式は七工程を示すが、温度と時間は数値非公開
- De Cecco形状別の乾燥時間を認証表示し、温度は示さない
「低速」「低温」は、公式が時間と温度のどちらを示すかまで分けて読む。
85°Cを超えない会社と、90°Cから始める会社
主要メーカーの製法は、公開情報の粒度がばらばらです。並べると差がよく見えます。
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La Molisana(ラ・モリサーナ)の工場責任者Flavio Ferroは、インタビューでこう言い切っています。ブロンズダイスを使うのは「ソースが定着しやすくなる引っかき傷(graffiatura)」が得られるから。そして乾燥は「85度を絶対に超えない。それ以上だと製品は乾くのではなくカラメル化してしまう」。上限を焦げの手前に置く設計です(同記事は創業を1910年、公式サイトは1912年としています。どちらが正しいかは確認できていません)。
Rummo(ルンモ)は「Lenta Lavorazione®(低速加工)」を商標として掲げます。公式サイトは7工程(原料選定・加水・ブロンズダイスでの押し出し・形状ごとの時間と温度の管理・ダイナモメーターでの硬さ測定を含む検査・包装・第三者による外部認証)を説明しますが、温度も時間も数字を出していません。ここは注意が要ります。紹介記事には「20〜40時間の超長時間乾燥」と書くものがありますが、Rummo公式の数値ではない。むしろイタリアの取材記事は「90°Cから始めて80°C、60°Cへ下げ、レシピにより5〜7時間」と書いています。「ゆっくり」が乾燥時間を指すのか工程全体を指すのかは、確認できていません。
De Cecco(ディ・チェコ)は1886年、アブルッツォ州ファーラ・サン・マルティーノで創業(父ニコラ・アントニオは1831年から同地で製粉業を営んでいました)。公式の沿革は、天候に左右されず乾燥できる低温乾燥装置を先駆けて導入したと述べます。乾燥時間は公表されていて、公式サイトの「Lenta essiccazione」は形状ごとに認証を取ったと述べ、短い形状9時間・長い形状18時間・特殊形状36時間の認証マーク(“ESSICCATA IN 9 ORE CERTIFICATE” ほか)を掲げています。同じページは対比として、高温乾燥を「>75°Cで3〜6時間」と定義しています。ただし自社の乾燥温度そのものは示していません。Barilla(バリラ)は1877年、パルマのパンとパスタの小さな店から。標準ラインはテフロンダイスで表面が滑らか、前述のAl Bronzoが別ラインという二階建てです。Garofalo(ガロファロ)も日本で入手しやすい銘柄で、グラニャーノに本拠を置き一部ラインにグラニャーノIGP表示があります。公式Virtual Tourは「トラフィラはブロンズまたはテフロン」と両方式を使い分けると説明しており、全形状がテフロンというわけではありません。
メーカー比較で確実に言えるのは原産地と創業年、そして規定に縛られる銘柄かどうかまで。「低温でじっくり」は、数字が添えられていない限り検証できません。数字を出している銘柄でも、時間だけか温度だけかで意味が変わります。De Ceccoは時間を認証つきで示す一方、温度は示していません。Rummoは工程の数を示して温度も時間も出していません。
- 細麺のワンパン1.4mmは少ない水で直接煮る設計と噛み合う
- 太麺と濃いソース1.6〜1.9mmは卵や肉のソースを受け止める
- 形で具を拾う筒、ねじれ、ロングをソースの粒と水分で選ぶ
番手でなくmmを見て、湯量、ソースの重さ、具の形と合わせる。
1.4mmと1.9mm、シェフはどこで刻んでいるか
太さの表記にも業界共通の規格がありません。「No.」の刻み方はブランドごとに違う。当サイトのデータで見ると、De Ceccoはスパゲッティ系だけでNo.10 フェデリーニ=1.4mm、No.11 スパゲッティーニ=1.6mm、No.12 スパゲッティ=1.9mmと3段階。Barillaは No.5=1.78mm、No.7=1.9mm。Garofaloは1.7mmが中心です。De Ceccoの No.12 とBarillaの No.7 はどちらも1.9mmで、番号ではなくmm表記で揃えるのが確実です(乾麺ブランド比較の記事)。
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シェフのレシピを見ると、番手は味の好みではなく「調理設計の変数」として使われています。
リュウジのアーリオオーリオは「ママーの1.4mm」を100g。袋の表示茹で時間(1.4mm=5分)を根拠にしつつ、専用の鍋を使わず水350ccで麺を直接煮る一体調理を採ります。カチョ・エ・ペペでも1.4mm・100gを水340ccで煮る。細い麺を選ぶ理由が、湯量を絞った調理法と噛み合っている。太い麺では水が足りません(リュウジのカルボナーラの記事、アーリオオーリオ比較の記事)。
対してカルボナーラの店舗版(chef ropia)は1.6mmのブロンズダイス麺を160g(2人分)。卵でソースを乳化させる皿では、麺表面のざらつきが仕事をします。ボロネーゼのレシピ群になると幅はさらに広く、乾麺だけでも1.6mm(塩1%・表示−1〜2分)から1.9mm(塩1.5%の湯で11分)まで散らばり、Fabioのように生地を1.5mm厚に延ばして手切りする生パスタ派もいます。数値をどこまで指定するかはシェフごとで、太さとは対応していません(1.8mmのリュウジは塩の指定がなく、1.6mmの日髙は塩1%・湯量まで指定する)。
袋の表示茹で時間をそのまま信じるか、30秒引くか、半分で上げるか。ここも流派が割れる領域で、袋の茹で時間は誰のための数字かの記事にまとめてあります。
形状の選択も同じ論理です。オイルと水分が主体のボンゴレ・ビアンコ、スパゲッティ・アッロ・スコリオ、プッタネスカ、レモンのパスタはロング。具が絡む必要のあるアラビアータ、ウォッカのパスタは筒(tube)で内側にもソースを入れる。ノルマも当サイトの3流派中2つ(セダーニ・リガーティ、リガトーニ)は筒ですが、残る1つはカサレッチェで筒ではありません。トラーパニ風ペストのように粒の粗いソースには、ねじれ(ブジアーテ)が合う。同じ粗いソースでもノルチャ風は3流派とも筒を選びます。断面の設計思想が違います。
- 南の乾麺保存性と均一さが、定番料理の日常性を支える
- 北の卵入り生麺タヤリンやフェットチーネは別の技術系統にある
- 茹で時間で順番変更乾麺と生麺では、先に作るソース工程も入れ替わる
乾麺と生麺は材料だけでなく、ソースを作る順番まで変える。
乾麺が主役でない皿もある
当サイトが扱う皿のすべてが乾麺前提ではありません。
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オレキエッテとチーマ・ディ・ラーパでは、当サイトの3流派のうち、セモリナと水から手で成形するのはgiallozafferano版だけで、Serious EatsとPasta Grammarは乾燥オレキエッテを使います。ただし指で押した耳のくぼみは、ソースを受けるための形です。ピエモンテのタヤリンと白トリュフは卵黄をたっぷり使う生の細切り麺で、フェットチーネ・アルフレードも帯状の麺が前提。北イタリアの卵入り生麺と南イタリアの乾麺は、別の技術系統です。
乾麺か生麺かで手順の設計そのものが変わる例もあります。クアトロ・フォルマッジのレシピは、乾麺のペンネと自家製の生ニョッキとで「ソースを作る順番」を使い分けるよう明記しています。茹で時間の長い麺と短い麺では、待たせる側が入れ替わる。
そしてアマトリチャーナのようなローマの定番も、ナポリタンのような日本の定番も、「安価で保存でき、いつでも同じ品質で手に入る乾麺」を前提に成立しています。大統領令が原料を2つに限り、IGPが温度に上限を書き、JASが押出し圧力を数値化しているのは、この麺が工業製品だからです。
袋を開ける前に、太さ(mm)とダイスの素材、産地表示を見る。この3つだけで、その麺がどういう設計なのかはかなり読めます。



